- 2026年6月21日
精神医学の性格論
精神医学の性格論
・精神医学と性格
「性格」は精神医療で大問題です。
精神医学でも科学全般でも本当は大問題のはずです。
しかし扱いにくいです。
扱いにくいので精神医学では性格を極めて限定的に扱っています。
現代の診断基準ではパーソナリティ障害という項目でまとまっています。
世界の診断基準WHOのICD10では性格その他の生来的特徴をまとめた大項目の中の主要な小項目、アメリカの診断基準DSM5TR(TRは改訂版)では割り切って性格の問題をパーソナリティ障害という大項目にしています。
結果としてパラフィリアなどの嗜好の問題や性(セックスやジェンダー)の問題はICD10では一つの大項目にしていますがDSM5TRではそれぞれ別の大項目になっています。
人間が正徳的に持っていたり環境によって形成される性格、性質、気質、英語ではパーソナリティやキャラクター(日本でもキャラは性格の意味で使われるが英語とちょっと意味が変わる)やネイチャーなどひっくるめたものは臨床精神医療でも医学でも大問題のはずですが科学的にスマートでジャストフィットな定式化ができないため遠ざけられる傾向にあります。
この手段がないから大切でも扱わないというのは現代的に誠実(科学的でもどんな意味でも)である場合陥りやすい盲点かもしれません。
精神科の主要な症状である抑うつとか不安は玄以やきっかけがあるないはともかくエピソーディックに生じる場合がありますが、生まれつき、あるいは成育環境によって性格の一部になっている場合があります。
そういうのは現代の精神医学では扱いませんし、精神医学に限らず科学が浸透した世の中では扱いにくく、扱われるのはメディアやネットや公的でない部分で扱われる感じでしょう。
実証、あるいは検証できないものは扱わないという姿勢です。
数理的なエビデンス、統計学か論理学かどっちも扱えないとあかんという時代風潮が近代以降は波はあっても通底してあるのでしょう。
また精神科で扱う場合は病的、あるいは障害的(障害構造論で自分が困るか周りが困るか)なものの扱いに限る傾向が強くなっています。
病前性格や精神疾患罹患後の性格変化、病気が盛んな時の性格的特徴などは昔の精神医学に比べて全然扱いません。
あまりに扱わなさ過ぎて精神科医の心理離れが進んでいるようです。
現代精神医学の性格論で歴史的、現代的に大切なものを3つ紹介します。
精神科の性格論ですから病的?というか異常?な性格に焦点を当てているので病的でも異常でもない人間一般の性格論ではないのはご注意ください。
現代精神医学の源流はドイツのミュンヘン学派のクレペリンにあります。
もう一つの巨頭はハイデルベルグ学派でクレペリンもそこの元教授ですがミュンヘン大学に移ってから別の方法論で精神科の疾患分類を作り現代精神医学の父と呼ばれています。
ハイデルベルグ大学もミュンヘン大学も今でもドイツのトップ大学です。
当時はゲッティンゲン大学もすごかったのですが今はややドイツでは地盤沈下しています。
現代の世界やアメリカの診断基準はクレペリンの方法論を継承しています。
ハイデルベルグ学派はクレッチマーやヤスパースや(クルト・)シュナイダーなどこれも現代精神医学の分類学とは違う意味での母体ですがクレペリンが診断学で画期的であるのに対してハイデルベルグ学派は精神病理学で名高いです。
クレペリンの方法はカールバウムやヘッカーの方法を引き継いで客観的、記述的な方法で疾患分類する方法です。
ハイデルベルグ学派の精神病理学の方法は説明と了解で代表される患者さんの内面を理解する主観的なアプローチでこちらはだいぶ廃れてしまいました。
クレペリンの方法で1980年代にアメリカの診断基準DSM-Ⅲが今の診断基準の元です。
クレペリンの方法は主観的なのを排して科学的、統計的である診断基準であること、すなわち主観を排して客観的に観察される患者さんの症候の観察だけで精神疾患を分類、診断するシステムです。
DSM-Ⅲまでは英米の精神医学はひたすら精神分析で主観的な診療を行っていましたがクレペリンの科学的な方法を取り入れたためネオ・クレペリニズムと言われることがあります。
性格は主観的なものを完全に排して分類するのは難しい所があります。
DSM-Ⅲはカテゴリー分類でいくつかの性格類型を作ってパーソナリー障害をそれに当てはまるかどうかで分類するという方法で行われました。
これは精神分析学の影響もあります。
パーソナリティー障害で20世紀後半に精神医療全体で大きな問題となった境界例(初期は精神病圏と神経症圏の境界で精神病圏より、今でいうとARMSとか統合失調症の前駆期、病前期から病初期、寡症状性統合失調症とか、その後神経症圏と精神病圏の境界の病態とパーソナリティ)の研究に精神分析家が大きな貢献を果たしたことにもよっていると思われます。
DSM5までは中途半端なものにとどまっていましたがおそらくアメリカのDSMではなく世界のWHOのICD-11では中途半端なカテゴリー分類ではなくディメンション分類という症候と記述的・操作的な診断基準で記述しカテゴリー診断をやめるとの話ですが境界性パーソナリティー障害(BPD)だけはそれを確立した精神分析家のカーンバーグを敬意を表してかどうかは分かりませんがBPDだけ残っているらしいです。
性格論と言っても障害構造論で問題になる性格類型の分類で異常というか病理的な性格論が主なものです。
正常というか生理的なあらゆる人間の性格を扱ったものではないことには注意が必要です。
・クレッチマーの気質論
クレッチマーはハイデルベルグ学派の重鎮です。
クレペリンの客観的、科学的、統計的障害分類では性格は扱いにくいと思われますがハイデルベルグ学派は患者さんの内面的を恣意的に研究するスタイルなので性格論と相性が良かったのか性格分類を行っています。
クレッチマーもドイツ精神医学の大物で彼の提唱した多元精神医学の考え方はDSMの改革時に多軸診断として取り入れられましたがDSM5ではなくなってしまいました。
ただパーソナリティー障害においてはディメンション分類として取り入れられるのではないかとずっと噂されていますしコンピューターサイエンスやデータサイエンスとは多次元分類(もはや分類ではないかもしれないが)は相性がいい面もあるかもしれません。
クレッチマーの性格論は生物学の三胚葉論とつながりがあります。
人によって発生学的か遺伝的か環境的か分かりませんが外胚葉優位な人と内胚葉優位な人と中胚葉優位な人がいると考えてそれが体系や性格に影響すると考えます。
そして外胚葉気質の人が統合失調症と親和性があり統合失調症に発症しやすくそのような病前性格をしている、内胚葉気質が躁うつ病と親和性があり躁うつ病を発症しやすくそのような病前性格をしている、中胚葉気質はてんかんと親和性があり転換を発症しやすくそのような病前性格をしている、みたいに考えます。
当時も今も科学的な根拠はないので仮説です。
根拠がないというかどちらかといえば否定されているようです。
でもなかなか面白いので紹介します。
ちなみにクレッチマーは古典的ヒステリーにおける狸寝入り仮説というのも唱えています。
発想力が豊かだったのかもしれません。
下記に図などでまとめましたが外胚葉気質が分裂気質、内胚葉気質が循環気質/躁鬱気質、中胚葉気質が粘着気質/てんかん気質と考えます。
昔は精神分裂病(今の統合失調症)、躁うつ病(今の双極症とうつ病)、てんかんは三大精神病と言われていました。
現在は内因性精神病はこのなかでは統合失調症だけでうつ病や躁うつ病は気分障害として精神病とは呼ばないようになってきました。
てんかんは20世紀前半に脳波が発見されたのが景気で現在はそもそも精神疾患の分類ではなくなってしまいます。
気分障害にしても躁うつ病とうつ病よりは統合失調症と躁うつ病の方が近いとされています。
ドイツの精神医学者エルンスト・クレッチマー(Ernst Kretschmer)が提唱した性格の3類型は、「分裂気質」「循環気質(躁鬱気質)」「粘着気質(てんかん気質)」です。
クレッチマーは「体型と性格には密接な関係がある」と考え、人間の体型を3つに分類し、それぞれに対応する性格(気質)を導き出しました。
クレッチマーの3類型一覧
| 体型の特徴 | 対応する気質 | 性格の主な特徴 |
| 細長型 (痩せ型・筋肉が少ない) | 分裂気質 (シゾイド) | 非社交的、静か、繊細、冷淡、知性的、自分の世界に閉じこもりやすい |
| 肥満型 (ふくよか・脂肪が多い) | 循環気質 / 躁鬱気質 (サイクロイド) | 社交的、気さく、親しみやすい、感情の起伏(陽気と陰気)が激しい |
| 闘士型 (筋肉質・骨太) | 粘着気質 / てんかん気質 (イクソチム) | 几帳面、頑固、熱中しやすい、礼儀正しいが融通が利きにくい |
補足
- 4つ目の体型:上記の3つに当てはまらない、身体のバランスが極端に悪い体型を「発育不全型(異形成型)」として分類しています。
- 現代の評価:現在の心理学では「体型だけで性格が決まるわけではない」とされていますが、性格と統計を結びつけた先駆的な研究として広く知られています。
・シュナイダーの精神病質
クルト・シュナイダー(カール・シュナイダーという別の精神医学者もいる)も精神医学会の大物です。
アメリカの精神科医学の転換点であるDSM-Ⅲはシュナイダーの臨床精神病理学にそっくりです。
知的障害以外の発達障害などは入って言いませんが逆に言えばそれくらいしか違いません。
ハイデルベルグ学派ですがクレペリンも踏まえています。
シュナイダーはその後のパーソナリティ障害の元みたいなのを作っています。
多分試行的な感じだったのかもしれませんがきりよく10の精神科親和的な性格を提案しています。
現在のパーソナリティ累計とはかなり違うのがおもしろい所です。
時代が違うと問題となる性格もどういう過去にはどういう性格が多かった少なかった、現在は過去と比べてどういう性格が減ってどういう性格が増えたかという見方ができると思われ時代によって人々の性格も変わっていく可能性を考えさせられます。
シュナイダーが提案した精神病質は現在では別の大分類に含まれている場合があります。
例えば抑うつ型は気分障害の気分変調症っぽいものかもしれませんし、爆発型は秩序破壊的・衝動制御・素行症群になるかもしれません。
ドイツの精神医学者クルト・シュナイダー(Kurt Schneider)が提唱した「精神病質(サイコパシー)」は、その偏った性格によって本人や社会が苦悩する10の類型に分類されます。
シュナイダーの精神病質10類型は以下の通りです。
- 抑うつ型(抑鬱者):常に悲観的で、陰鬱な気分にとらわれやすい。
- 発揚型(発揚者):いつも元気で活動的。自信過剰で興奮しやすい一面もある。
- 自己不確実型(自信過小者):自分に自信が持てず、常に他人の評価を気にしたり思い悩んだりする。
- 狂信型(熱狂者):強固な信念や理想を持ち、それを頑なに追求する。
- 自己顕示型(自己顕示欲者):周囲の注目を集めることを好み、自分を実際より大きく見せようとする。
- 爆発型(爆発者):些細な刺激やフラストレーションで激しい怒りや暴力を爆発させる。
- 気分易変型(情緒易変者):気分がコロコロと変わりやすく、感情の起伏が激しい。
- 意志欠如型(意志薄弱者):持久力や決断力に欠け、周囲の誘惑や環境に流されやすい。
- 惰性欠如型(人間性欠落者):情愛や共感性、良心の呵責が欠如しており、冷酷で無責任な行動をとる。
- 無力型(無気力者):エネルギーに乏しく、主体的な行動や努力が極めて苦手。
※なお、シュナイダー自身は、これら精神病質は医学的な病気ではなく、あくまで「正常な人格の変異(極端なバリエーション)」に過ぎないとしています。
・DSMのパーソナリティ障害
いろいろ問題はありますが現在は日本ではICD-10とDSM5TMを使っています。
DSM5では多軸診断システムというものをなくしたのが新しい一つの特徴になっています。
昔はパーソナリティ障害や知的障害は二軸の疾患修飾因子というか疾患の土台にあるものとして扱われてはいましたが一軸目の統合失調症や躁うつ病のように精神科の主役ではないように見える扱いをされていました。
軸をなくした代わりにそれまでよりかなり自由な疾患併存を認めています。
相互背反ではなくいろいろな病名を重ねてつけることが容易になりました。
ICD-10とDSM5TRはほぼ共通していますが違いもあります。
違いとしては統合失調症型パーソナリティはDSM5TRではパーソナリティ障害にも載っていますが精神病スペクトラム障害にも載っています。
このパーソナリティ障害があると統合失調症の発症率が高いというのが示されているからです。
DSMの反社会性PD(アンチソーシャル)とICDの非社会性(ディソーシャル)は対応するように見えてだいぶ中身が違います。
反社会性PDもDSMでは秩序破壊的・衝動制御・素行症群の大項目にも含まれています。
DSMはパーソナリティ障害のクラスター分けをしていますがICDではそのようなクラスター分けはしていません。
ICDではパーソナリティ障害は成人のパーソナリティおよび行動の障害という大項目の解分類で他に混合性及び他のパーソナリティ障害や持続的パーソナリティ変化、脳損傷及び脳変化によらないもの、習慣及び衝動の障害、性同一性障害、姓嗜好障害、姓の発達と方向付けに関連した心理及び行動の障害と性格というか性質みたいなものを広くカバーしています。
ICD10は大項目が10しかないのに対してDSM5TRでは大項目が20くらいあるのでICD10でパーソナリティ及び行動の障害の下位項目とされているものはDSM5TRでは単独の大項目になっているか、何かに吸収されているか、そもそもなくなっていたりします。
逆に言えばICDで性格や性質、個性や特性としてまとめられているようなものはDSM5TRではバラバラになっています。
また司法・警察やジェンダー、性欲などの問題は扱いが慎重になっています。
人生の大きな精神的な負荷やショックにより性格が変わってしまうのはDSMでは直接扱われていませんがICD11の10の次のバージョンでは複雑性PTSDという新しい診断が採用されてこれから研究されていくでしょう。
ICDの次のバージョンはパーソナリティ障害の診断体系そのものが変わっています。
DSM5TRではそこまでは生きませんが、ディメンション診断が研究課題とされています。
DSM-5-TRとICD-10(※最新版はICD-11)のパーソナリティ障害(パーソナリティ症)は、「10のタイプに分ける基本構造はほぼ共通」ですが、「グループ分け(クラスター分類)の有無」や「名称・カテゴリの細かな違い」があります。
具体的な分類と対応は以下の通りです。
1. DSM-5-TRの分類(10種類・3群)
DSM-5-TRでは、10種類のパーソナリティ障害を特徴別に3つの群(クラスター)に分けて整理しています。
- A群(奇妙で風変わりなグループ)
- 妄想性パーソナリティ障害
- スキゾイドパーソナリティ障害
- 統合失調型パーソナリティ障害
- B群(感情が不安定で衝動的なグループ)
- 境界性パーソナリティ障害(BPD)
- 演技性パーソナリティ障害
- 反社会性パーソナリティ障害
- 自己愛性パーソナリティ障害
- C群(不安と恐怖心が強いグループ)
- 回避性パーソナリティ障害
- 依存性パーソナリティ障害
- 強迫性パーソナリティ障害
2. ICD-10の分類(特定のパーソナリティ障害)
ICD-10ではA・B・C群のようなグループ分けはせず、「特定のパーソナリティ障害(F60)」として以下のようにリストアップされています。DSMと名称や分類が少し異なります。
- 妄想性パーソナリティ障害
- 分裂病質パーソナリティ障害(DSMのスキゾイドに相当)
- 情緒不安定性パーソナリティ障害(DSMの境界性に相当する「境界型」などを含む)
- ※ICD-10では「境界性」という独立した項目はなく、情緒不安定性の中に含まれます。
- 非社会性パーソナリティ障害(DSMの反社会性に相当)
- 演技性パーソナリティ障害
- 強迫性パーソナリティ障害
- 不安性(回避性)パーソナリティ障害(DSMの回避性に相当)
- 依存性パーソナリティ障害
3. その他の大きな違い
- カテゴリカル分類から次元モデルへ: 現在の最新版であるICD-11では、これまでの細かいタイプ分けを廃止し、パーソナリティの偏りの「重症度」と「特定の領域の特性(次元的アプローチ)」で評価する新しいシステムへと大きく移行しています。
- 診断基準の数: DSM-5-TRは「○○の項目のうち○個を満たす」というように診断基準が非常に細かく数値化されているのに対し、ICD-10は文章による全体的な特徴の記述を重視する傾向があります。
・新しいパーソナリティ障害、精神科の病理的性格論の時代
現在はICD-11という世界診断基準ができていますが日本では翻訳がちょっと関西弁で言えばわやなほどに遅れてしまって変な状態になっています。
翻訳してそれを使いやすくした単行本サイズの手引きやガイドができてようやく現場に普及するのですがちょっとICD10を使うべきかDSM5TRを使うべきかICD11を使うべきか現場が混在状態になっています。
例えば日本の精神科の学会で病名?に障害という言葉を使わず症という言葉を使いましょうということになっているのですがICD10はが国家の公式な診断基準なので障害を使うか、学会の方針やDSM5TRの翻訳で使われている症を使うかで混乱状態です。
病名だけならいいのですが疾患概念や診断基準や分類ごと違う場合があるのでそれを使っていいのかどうかやや混乱状態が随所にあるようです。
DSMでもディメンション型のパーソナリティ障害の診断基準を作るという話はあったのですがDSM5では一旦お流れになって流れている間にISDが先んじてパーソナリティ障害の診断基準を変えてしまいました。
DSMとICDは統一化を図る方向になっていたはずなのでDSM6ではICDに準じてパーソナリティ障害のディメンション診断が導入される可能性が高いです。
「分類」という言葉はカテゴリーやカテゴライズで使われやすいと思われます。
ディメンションで扱うのは大きな情報を扱うので取り回しが大変かもしれませんが情報科学やコンピュータやAIが発展している昨今にはこちらの方が向いているかもしれません。
そもそも性格が科学的に扱いにくいのはカテゴリーでは扱いにくいからです。
全ての人間がいくつかの性格に当てはまるのならカテゴリーでもいいのでしょうが、人間は多分多様な要素を持っていて単純な類型化は不可能なのでしょう。
不可能だけども問題はあるので何とか医学や社会が対処しようと思ってむりかし10くらいのパーソナリティの類型をつくってつかっていたのですが(その他とか特定されないパーソナリティ障害は除く)流石に限界という感じです。
ICD-11におけるパーソナリティ障害(パーソナリティ症)の診断基準は、これまでの歴史のなかで最も劇的といえるほど「だいぶ変わって」います。
一言でいうと、従来の「タイプに当てはめる分類(カテゴリカル・モデル)」を完全に廃止し、「全体の重症度と、個人の性格特性の組み合わせ(ディメンショナル・モデル)」へと180度方針転換されました。
具体的な変更のポイントは以下の3つに整理できます。
1. 従来の「〇〇型」という下位分類がほぼ消滅
ICD-10やアメリカのDSM-5で馴染み深かった、以下の10種類におよぶ個別の診断名(下位分類)が、「パーソナリティ症」という1つの診断名に一本化されました。
- 消滅した主な分類:自己愛性、反社会性(非社会性)、回避性、依存性、強迫性、演技性など
- 唯一の例外:臨床現場でのニーズが非常に高い「境界性パターン(Borderline pattern)」だけは、補足的な指定子(特徴の記述)として例外的に残されました。
2. まず「重症度」から評価する仕組みに
新しい基準では、個別のタイプを見る前に、まず「本人や周囲がどれだけ困っているか、生活にどれだけ支障が出ているか」という全体の重症度を以下の4段階に分類します。
- パーソナリティの困難(Personality Difficulty):病気(障害)とは診断されないが、日常生活で特定の性格傾向による生きづらさがあるレベル
- 軽度(Mild):いくつかの領域で支障はあるが、社会的役割は概ね維持できている
- 中等度(Moderate):多くの領域で人間関係や仕事に明確な支障が出ている
- 重度(Severe):ほぼすべての領域で機能不全に陥り、自身や他者に深刻な危害が及ぶリスクがある
3. 性格の傾向を「5つの特性」で記述
重症度を決めたあと、その人の生きづらさが「どのような性格の偏りから来ているか」を、心理学のビッグファイブ(5大性格特性)に近い5つの特性領域(ドメイン)から当てはまるものを複数選んで記述します。
| 特性領域(ドメイン) | 具体的な特徴 |
| ① 否定的感情(Negative Affectivity) | 不安、怒り、不信感、自己嫌悪などのネガティブな感情を抱きやすい |
| ② 離脱(Detachment) | 他人との距離を置き、親密な関係を避け、感情の表出が乏しい |
| ③ 非社会性(Dissociality) | 他者への共感や配慮に欠け、自己中心的で、他者を利用・攻撃しやすい |
| ④ 脱抑制(Disinhibition) | 衝動的に行動してしまい、計画性がなく、目先の欲求を我慢できない |
| ⑤ アナンカスティア(Anankastia) | 完璧主義、ルールへの執着、過度なコントロール(強迫性に近い) |
なぜここまで大きく変えたのか?
従来のやり方では「複数のタイプにまたがって診断されてしまう(例:境界性であり、かつ回避性でもある)」という重複や、「どれにもぴったり当てはまらない」という問題が多く発生していました。ICD-11の新しい基準は、「グラデーション(度合い)で捉えるほうが、一人ひとりの実際の状態に合わせた柔軟な支援や治療がしやすい」という臨床的なメリットから導入されています。