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  • 2026年4月6日

季節の変わり目はなぜ不調になるのか

―冬の終わりと夏の終わりの心身の変化―

季節の変わり目はなぜ不調になるのか

―冬の終わりと夏の終わりの心身の変化―

季節の変わり目は心身ともに不調になりやすいです。

たいていの医療の各診療科目で患者さんが増えたり症状が悪化したり受療頻度が高くなります。

これには非常に多くのことが関わっています。

科学的にもいろいろなことが分かっています。

最近では炎症性サイトカインに季節差があって冬などの感染症は他の季節より悪化しやすいなど、かなり科学的に説明できることが増えています。

炎症性サイトカインは免疫や感染症発症時の症状を悪化させるだけでなくそれ自体が神経系にも内分泌にも影響を与えますからメンタルの基礎状態も変化させる可能性が示唆されます。

これは一例ですがそれ以外にも様々なことが冬の終わりや夏の終わりのような気候的な極期からの季節の変わり目での心身の変化に影響することが分かっているのでまとめてみます。

分かっていること:生理学・基礎医学的メカニズム

自律神経系の負荷: 季節の変わり目、特に気温・気圧・湿度の変動が大きい時期に、恒常性維持のために自律神経系が過剰に動員されます。気圧の変動を内耳の三半規管と前庭が感知し、脳に伝達され、自律神経がストレス反応を起こして交感神経が興奮状態になるというメカニズムが近年の研究で示されています。これが「気象病」「天気痛」と呼ばれる現象の基盤です。

光とホルモン: 日照時間の変化がメラトニンとセロトニンの産生に影響します。冬季のうつ(SAD)は日照時間の減少によるセロトニン低下が関与しており、光療法が有効とされています。春に日照が急に増えることによる概日リズムの急激な再調整も負荷になります。

免疫系の季節変動: 冬の終わりには感染症負荷の蓄積があり、免疫系が消耗した状態で春の環境変化に曝される。炎症性サイトカインとうつ症状の関連も指摘されており、感染症後のsickness behaviorが気分変調の基盤になりうる。

コルチゾールの季節変動: HPA軸の活動には季節性があり、冬から春にかけてコルチゾールの日内変動パターンが変化します。この移行期にストレス応答系が不安定になりうる。

臨床的な裏づけ

2-3月の揺れと衝動性、4-5月の自殺の多さ: これは精神医学的にもよく知られたパターンで、冬季うつから回復する過程で活動性が先に戻り、抑うつ気分がまだ残っている時期に自殺の実行力が生じるというメカニズムが古くから指摘されています。2-3月の衝動的な自傷は気分の不安定さ(揺れ)の反映で、4-5月は「動ける程度には回復したがまだ苦しい」状態の反映です。

夏の終わりの高齢者と子ども: 猛暑による身体的消耗(熱中症の亜臨床的な累積、脱水、睡眠障害)が高齢者の死亡率上昇に関与しています。子どもの夏休み明けの自殺は、環境的・社会的なストレス(学校復帰への不安)が主ですが、夏の生活リズムの乱れによる概日リズムの崩れも基盤にあるでしょう。

壮年期に目立つという観察: これは非常に興味深い点で、いくつかの要因が重なっていると思われます。壮年期は社会的負荷(仕事、子育て、介護)が最大であり、環境ストレスに加えて社会的ストレスが乗る。また40歳を過ぎると副交感神経の機能が低下することが知られており、自律神経の調整能力が下がり始める年代と社会的負荷のピークが重なる。若い世代はエネルギーの余力で環境変化を吸収でき、高齢になると感受性の鈍麻(これ自体が防御的に働く面がある)で影響が表面化しにくい。

東洋医学的な視点

東洋医学はこの領域でかなり古くから体系的な記述を持っています。五行説における季節と臓腑の対応(春=肝、夏=心、秋=肺、冬=腎、土用=脾)は、季節ごとの心身の変調パターンを記述する枠組みです。春に肝気が上昇してイライラや頭痛が増え、秋に肺気が収斂して感傷的になる、といった記述は臨床的な観察と合致する部分が多い。

「気」の概念は西洋医学的には自律神経機能とHPA軸活動と免疫機能を合わせたようなものに対応し、「気虚」は奥村さんがおっしゃる「生理活性やエネルギーの低下」に近い。季節の変わり目に気虚が生じやすいという東洋医学の記述は、自律神経の過剰動員によるエネルギー消耗として現代医学的にも解釈可能です。

気候・日照・睡眠/概日リズム・自律神経・感染症/炎症・社会的節目が重なる多因子現象として理解するのがいちばん自然です。季節と気分変動の研究はなお不均一ですが、少なくとも冬〜春、夏の極端な暑熱、長期休業明け/年度替わりが心身の不調や自殺リスクの増減と関係することは、レビューや公的統計でかなり一貫して見えます。

まず、冬の終わりから春先に揺れやすいのは十分ありえます。
理由の一つは、日照と概日リズムです。季節性うつ病は典型的には秋冬に悪化し春夏に軽くなる病型として知られ、双極性障害でも光・睡眠・季節リズムの乱れがエピソードに関与しうるとされています。さらに「春の自殺ピーク」は国際的にも再現性が高い一方、なぜ春に増えるのかはまだ完全には分かっていない、というのが現在の誠実なまとめです。つまり、春先の不安定さは臨床的に感じられても、その中身は「気分障害の悪化」だけではなく、眠気・不眠・活動性の上がり方と気分の追いつかなさ・衝動性の変動を含む可能性があります。

次に、自律神経・循環器系はかなり季節性があります。
交感神経活動は冬に高くなることが示されており、血圧も一般に冬高く夏低い傾向があります。日本の家庭血圧データでも季節変動は確認されていて、寒冷時の血圧上昇や朝の血圧上昇が問題になります。これは「冬の負債」という表現とかなり相性がよく、冬の終わりには、寒冷曝露、睡眠の質低下、感染症、活動量低下、血圧変動などが積み上がった状態で、そこへ年度末・異動・進学就職準備が重なる、と考えると臨床感覚に合います。

さらに、冬の終わりは感染症と炎症の影響も残りやすいです。
感染症の季節性は、気温や湿度などの環境要因だけでなく、人の行動、宿主の感受性、免疫の季節変動が重なって生じます。実際、ヒトの免疫パラメータには季節変動があり、呼吸器感染症の流行にも影響しうるとされています。したがって、2〜3月の「何となく心身がしんどい」は、気分の問題だけでなく、感染後疲労、炎症、睡眠負債、体力低下も同時に考えた方がよいです。

日本の自殺統計も、「春」と「休み明け」の二つの山をかなり示しています。
厚労省資料では、令和6年の月別自殺者数は4月が最多でしたし、令和4年も5月が最多でした。小中高生では、文科省が長期休業明け、とくに9月1日付近で自殺が増える傾向を繰り返し注意喚起しています。さらに白書では、児童生徒は月別累計で8月・9月・1月、学生等は3月・4月・9月が多いとされています。ですから、先生が感じておられる

  • 2〜3月:揺れや衝動性が目立つ
  • 4〜5月:統計上の自殺が多い
  • 8月末〜9月初旬:子どもの自殺が多い
    という臨床感覚は、日本の公的統計とかなり整合的です。

一方で、近年は夏の重さも無視できません。
高齢者では熱中症死亡が多く、レビューでも65歳以上、とくに75歳以上で熱関連死亡リスクが高いことが確認されています。日本では熱帯夜(hot nights)も全死亡リスク上昇と関連し、暑さは睡眠を崩し、睡眠障害は気分や不安の悪化につながります。精神科的にも、暑熱はイライラ、不安、抑うつ、精神科救急受診、自殺リスクと関連する報告が増えています。ですから、昔の「冬のしんどさ」に加えて、最近は夏の終わりの消耗が本当に大きくなっている、と見てよいです。

年齢差については、先生の臨床印象はよく分かりますが、少し分けて考えると整理しやすいです。
まず、身体の脆弱性という意味では高齢者はむしろ暑さ・寒さに弱く、死亡や循環器イベントのリスクは高いです。いっぽうで、「季節で気分が揺れる」「天候でつらい」と主観的に訴えるかは、年齢、生活リズム、就学就労ストレス、慢性疾患、社会的役割でかなり変わり、単純な一本線では言えません。季節性感情障害は一般に若年〜成人早期発症が多い一方、子どもは学校暦の影響を強く受け、高齢者は身体リスクの比重が増えます。したがって、若年は社会移行と生活リズム、壮年期は役割負荷と自律神経/睡眠、高齢期は身体脆弱性と温度負荷というように、同じ「季節の影響」でも顔つきが違うと考えるのが実践的です。

先生の「壮年期に目立つ」という印象も、心理社会的負荷の重なりを考えるとかなり自然です。
壮年期は、仕事の繁忙、異動、管理責任、家族ケア、受験・卒業・就職・転居のサポートなど、季節の変わり目に社会負荷が集中しやすい時期です。そこへ、冬の寒冷負荷や感染症、春先の睡眠・概日リズム変化、夏の暑熱消耗が重なると、「気候だけ」でも「ストレスだけ」でもない揺れが生じます。実際、気候・気象因子と精神・行動の問題の関連をまとめたレビューでも、温度、湿度、気圧、降雨などは精神症状と関連しうるが、効果は生物学的要因と社会的要因の相互作用として理解すべきだとされています。

クリニック記事として書くなら、私は次の軸でまとめるのが読みやすいと思います。

「季節の変わり目に心身が揺れるのは、気のせいではなく“複合要因”です」
として、本文では

  • 気候:寒暖差、暑熱、湿度、日照
  • :自律神経、睡眠、血圧、免疫、感染後疲労
  • :不安、抑うつ、イライラ、衝動性
  • 社会:年度替わり、異動、進学就職、長期休暇明け
  • 年齢差:子どもは学校暦、働く世代は役割負荷、高齢者は身体脆弱性
    の5本立てにすると、かなりまとまります。公的統計としては、春の自殺ピーク子どもの9月1日前後高齢者の熱関連リスクを押さえると、記事に説得力が出ます。

一言でまとめるなら、

季節の変わり目の不調は、「気候」単独ではなく、「体の季節変化」と「生活の節目」が重なって起こる。
冬の終わりは寒冷負荷・感染症・睡眠/概日リズム変化・年度末が、夏の終わりは暑熱消耗・睡眠障害・休み明けストレスが重なる。

です。

1. 2〜3月の「揺れ・衝動性」と4〜5月の「統計的自殺増」の生理学

2、3月は揺れと衝動的な自傷が多く、4、5月は揺れが落ち着くのに自殺が増えるのは、精神医学的に非常に重要な現象を捉えています。

  • エネルギーと気分のタイムラグ: 冬の間、日照時間不足により枯渇していた「セロトニン(気分安定)」と、体内時計を司る「メラトニン」のバランスが、春の急激な日照増で変化します。このとき、「気分の落ち込み」が回復するよりも先に「身体的エネルギー(焦燥感・衝動性)」が回復してしまうというタイムラグが起きます。抗うつ薬の投与初期に起こるアクティベーション・シンドローム(賦活症候群)と同じ理屈で、これが2〜3月の「衝動的な行動」の引き金になります。
  • 汎適応症候群(ストレスの枯渇期): 4〜5月は、日本の社会的な新年度の環境変化(引っ越し、異動、進学)という強烈なストレッサーが加わります。ハンス・セリエのストレス学説でいう「抵抗期(過剰適応して頑張れている状態)」から、GW明けにエネルギーが切れて「疲廃期」へと移行するため、揺れは見えにくくとも、不可逆的な決断(自殺)に至るリスクが跳ね上がるのです。

2. なぜ「壮年期」に環境感度が上がり、「高齢者」で鈍るのか?「壮年期(働き盛り)で気候への感度が上がり、高齢者で鈍る」という現象は、自律神経機能と感覚受容器のエイジング(加齢変化)で見事に説明がつきます。

  • 若年層(20代まで): 東洋医学でいう「気(生命エネルギー)」が満ちており、ホメオスタシス(恒常性維持機能)が強力です。気圧や気温が乱れても、強力な自律神経のバネで即座に補正できるため、環境のノイズを「感じずに」済みます。
  • 壮年期(30代〜50代): 自律神経の機能は20代をピークに、10年ごとに約10%ずつ低下すると言われています。バネが弱っているにもかかわらず、社会的・家庭的ストレス(仕事の責任、育児、介護の挟み撃ち)は人生で最も高い時期です。さらに先生が指摘した「運動不足(身体的予備能の低下)」が重なると、内耳の気圧センサー(圧受容器)などが過敏に反応し、「気象病」や「季節の変わり目の不調」としてアラートを鳴らしやすくなります。
  • 高齢期: ここが面白いところですが、高齢になると自律神経だけでなく**「温度センサー」や「気圧センサー」といった知覚そのものが鈍麻(鈍く)なります。** そのため、「気候の変化による主観的な揺れやだるさ」は感じにくくなります。しかし、これは環境に適応できているわけではなく、「アラートが鳴らないままダメージが蓄積している状態」です。だからこそ、主観的な揺れはないのに、真夏や真冬に「突然の熱中症」や「心筋梗塞」で命を落とす率が高くなるのです。

3. 東洋医学からのアプローチ:季節の「気」のダイナミズム

東洋医学では、自然界の季節変化と人体の臓腑を完全にリンクさせて考えます

冬の終わり〜春(肝の昂り): 春は「肝(自律神経や感情のコントロール)」の季節です。冬の間に内に溜め込んでいた(蔵)エネルギーが、春になって一気に上に向かって芽吹こうとします(生)。この「気の上衝」がうまく発散されないと、上半身に熱がこもり、イライラ、焦燥感、不眠、めまい、そして衝動的な揺れとなって表れます。

  • 夏の終わり〜秋(気陰両虚): 猛暑で大量の汗をかくと、水分(陰)だけでなく、気(エネルギー)も一緒に漏れ出てしまいます。これを「気陰両虚(きいんりょうきょ)」と呼びます。夏休みの終わりには、このエネルギーと潤いの絶対的な枯渇により、深い抑うつや無気力(いわゆる夏バテのどん底)が訪れます。

これらの知見をまとめると、

  1. **「今の不調は、あなたの心が弱いからではなく、地球の季節と自律神経のズレという『物理的・生理的な現象』です」**という免罪符(バリデーション)。
  2. 年代別のメカニズム解説: 「若い頃は気合いで乗り切れたのに…」と落ち込む壮年期の患者さんに対し、自律神経のエイジングと社会的負荷のピークが重なる「当然の現象」。
  3. 時期別の注意喚起: 春先の「衝動的なエネルギーの空回り」と、5月や夏明けの「バッテリー切れ」の違いがあり、それぞれに合った過ごし方(春は無理に新しいことを始めずペースダウン、夏明けは徹底的に休養など)が大切。

1. 統計的に確認されている季節性

  • 自殺・自傷の季節性 日本では3〜5月(特に3月・4月・5月)が自殺者数のピークです(厚生労働省・警察庁データ、令和4〜6年)。
    • 2〜3月:衝動的自殺・自傷が増加(年度替わり・新生活ストレス+気温急上昇による自律神経の揺らぎ)。
    • 4〜5月:統計上最も多くなる(環境変化の蓄積+日照時間の急増)。
    • 夏休み明け(8月末〜9月1日頃):子ども・生徒の自殺が顕著に増加(学校復帰ストレス)。
  • 高齢者の死亡率
    • :低温による死亡(低体温症・凍死)が毎年1000人超。熱中症死亡を上回る年もあり、室内凍死が85%以上を占める(高齢者・低所得層で特にリスク高い)。
    • :猛暑による熱中症死亡が急増(2024年は過去最多)。高齢者は体温調節機能低下で影響を受けやすい。

2. 生理学的・身体科的なメカニズム

季節の変わり目は気温・気圧・湿度・日照時間の急変が自律神経・ホルモン・体内時計に直接影響します。

  • 主な因子と影響
    • 日照時間の変化:冬終わり(日照増加)→セロトニン急増で躁状態や衝動性↑。夏終わり(日照減少)→セロトニン減少・メラトニン増加で抑うつ・不眠。
    • 気圧・湿度の変動:低気圧接近や梅雨期に自律神経が乱れ、頭痛・めまい・不安・気分の落ち込み(気象病)。
    • 寒暖差・猛暑:体温調節負担でコルチゾール(ストレスホルモン)上昇、炎症反応増加。
    • 冬バテ・夏バテ:蓄積疲労(冬の低温ストレス、夏の熱ストレス)が春・秋の変わり目に表面化。
  • 年齢による感受性の違い
    • 壮年期(30〜50代):ホルモン・自律神経の感受性が最も高く、外部環境の影響を受けやすい。
    • 若年期(20代まで):代謝・気・生理活性が高く、比較的影響を受けにくい。
    • 高齢期:体内時計の同調機能が低下し、気温・気圧への感度が「鈍くなる」一方で、適応力が弱まるため死亡リスクは高まる(感受性低下ではなく「対応力低下」)。

3. 東洋医学・心身医学的な視点

東洋医学(五行説)では、季節の変わり目は「気」の乱れが起きやすい時期とされます。

  • 春(肝):冬の「気」の停滞が一気に解放され、肝が過剰に働く→イライラ・不眠・衝動性↑(2〜3月の自傷増加と一致)。
  • 秋(肺):夏の疲労が表面化→気虚・憂鬱(夏休み明けの子ども自殺と関連)。
  • 季節の変わり目:五臓のバランスが崩れやすい「土用」の時期に相当し、心身の「揺らぎ」が顕在化。

心身医学的には、気象病(天気痛)として自律神経失調・セロトニン変動が重視され、ストレス+気象因子の相互作用で症状が悪化すると考えられています。