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  • 2026年2月26日

『もの』か『関係』か――実体主義と関係主義で、構造主義のふわっとしたイメージを一掃する

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『もの』か『関係』か――実体主義と関係主義で、構造主義のふわっとしたイメージを一掃する

「構造主義」という言葉を聞くと、なんだか難しそうで、しかも食傷気味だという人が多いのではないでしょうか。レヴィ=ストロースの神話分析から、ソシュールの言語学、さらには現代の文化理論やポスト構造主義まで、ありとあらゆる文脈で使われてきました。でも「構造って何?」と問われると、答えに詰まる。「実在論」も同じです。哲学書を開けば出てくるのに、ピンと来ない。

そこで、もっと潔く、現代の思考にフィットする二つの言葉に置き換えてみましょう。

  • 実体主義(substantialism / substantivalism) 世界はまず「もの・実体・点・個」が存在し、そこに関係が後から生まれると考える立場。
  • 関係主義(relationalism) 世界はまず「関係・対応・変換・矢印」が存在し、「もの」はその関係のネットワークの中でしか定義されないと考える立場。

この対比は、実は中学生でもわかる数学で鮮やかに体感できます。そしてそのまま、現代哲学の核心――量子力学、AI、ネットワーク社会、縁起思想――に直結します。

1. 算数から始まる二つの視点:数直線上の「点」か「動き」か

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小学算数で習う「数直線」。 実体主義的見方:3という「点」が数直線上のどこにあるかが大事。 関係主義的見方:+4という「矢印の動き」が大事。

同じ5+2=7でも、前者は「7という実体にたどり着く」、後者は「5から7へどう関係づけられるか」。 大人になって振り返ると、これがすでに「存在とは何か」の分水嶺です。実体主義は「固定された本質」を求める古典的な西洋哲学(アリストテレス的な「実体」)。関係主義は「縁起」や「差異の体系」(デリダ的な脱構築の根底)です。

2. 中学幾何:三角形という「もの」か、変換という「関係」か

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合同・相似の証明。 実体主義:三角形ABCという個別の図形(点の集まり)が「実在」する。 関係主義:平行移動・回転・拡大・反転という「変換の合成」で、別の三角形とぴったり重なる関係がある。

ここで大事なのは、変換そのものが「一次的」だということ。図形は変換の結果として浮かび上がるだけ。 これが構造主義の本質です。レヴィ=ストロースが神話を分析したときも、個別の神話ではなく「変換の体系(構造)」を見ていたのです。現代では、SNSの「関係性の中でしかアイデンティティが成立しない」状況そのものです。

3. 中学関数:y=2x+1 の「グラフ上の点」か「対応関係」か

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Composite Functions: Properties, Definition & Examples | AESL

関数 f(x) = 2x + 1。 実体主義:入力xという実数に、出力yという実数が対応する「点の集まり」。 関係主義:xからyへの「写像(対応関係)」そのもの。しかも合成関数 f∘g では、関係を関係で組み合わせるだけ。

デカルト座標は「ただの見やすい表示ツール」に過ぎなくなります。 哲学的に言うと、ここから「意味とは何か」が変わります。ウィトゲンシュタイン後期の「言語ゲーム」や、構造主義言語学の「記号は差異の関係でしか意味を持たない」という主張が、まさにこの関係主義です。

4. 高校行列:デカルト座標は「特別な場合」に過ぎない

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Linear Transformations: How Matrices Move and Transform Vectors | by Aashu Aggarwal | Medium

平面上の点 (x, y) を行列で変換する。 実体主義:各点の座標を計算し直す作業。デカルト座標が「正義」。 関係主義:行列自体が「平面全体をどう動かすか」という関係。回転も拡大も、基底(座標系)を変えても同じ関係として表現できる。

「座標はラベルに過ぎない」。この一瞬の気づきが、現代思想の解放感そのものです。 物理学では、アインシュタインの一般相対性理論(時空は関係の産物)、量子情報理論(情報は関係)、さらには圏論(現代数学の基礎を「射(関係)」だけで構築)で、関係主義が圧倒的に優勢になっています。

この分け方が現代哲学をクリアにする理由

  • 実体主義は「本質主義」「原子論」「個の優位」に繋がりやすい。
  • 関係主義は「構造主義」「システム思考」「ネットワーク」「縁起」「脱中心」に繋がる。

構造主義がふわっとしていたのは、「構造」という言葉が両方を混ぜていたからです。 関係主義だけを純粋に取り出すと、仏教の「無我」、ラカンの「主体は他者の欲望の関係の中で生まれる」、さらには今日のAI(大規模言語モデルは「関係の統計」そのもの)まで、一気に繋がります。

最後に――大人こそ、この視点を持とう

中高の数学を「ただの計算」と思っていた頃とは違う目で振り返ってみてください。 そこに、すでに現代哲学のすべてが隠れていました。

「私は何者か?」 実体主義なら「固定された本質」。 関係主義なら「今、誰とどう関係しているか」。

この切り替えができるだけで、世界の見え方が180度変わります。 構造主義に食傷気味だった人も、ぜひ「関係主義」という言葉を日常に持ち込んでみてください。 数学が哲学になり、哲学が日常になる――そんな驚きを、きっと味わえるはずです。

(この記事は、数学を道具にしながら、現代思想の核心をできるだけシンプルに整理したものです)